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 レコード芸術 2006年9月号 新譜月評/再発売

  モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲全集

 寺神戸亮 (Vn)
 S.クイケン (Vn・Va・指揮)
 ラ・プティット・バンド
 [デンオン (アリアーレ) COCQ84188〜90 ¥3150]


◆中村孝義:推奨                 [録音]=95点

生誕250年の今年になって、交響曲、ピアノ協奏曲、管楽器のための協奏曲、室内楽、オペラなど他の分野に比べてあまり録音のなかったヴァイオリン協奏曲に、カルミニョーラ、マンゼ、ビオンディなど今をときめくバロック・ヴァイオリンの錚々たる名手たちの録音が出てきた。やっとこの分野にもピリオド楽器の本格的な光が指したのだ。このアルバムは、それらに先駆けること約10年の95年から97年にかけて、ピリオド楽器演奏が大きな潮流となることに先駆的役割を果たすと同時に、いまなお一線で活躍するシギスヴァルト・クイケンとその弟子の寺神戸亮によって録音された全集。ただ他の全集と違って、ここでは師弟が5曲の協奏曲を分け合って録音しているのがひとつの特徴である。クイケンは第24番の3曲を担当し、寺神戸は残りの第1番と第5番を担当している。加えて「2つのヴァイオリンのためのコンチャルトーネ」は両者が、また「協奏交響曲」では寺神戸がヴァイオリンを担っている。
 まず聴いて惹きつけられたのは、クイケン指揮するラ・プティット・バンドが、透明感に満ちた響とくっきりとした輪郭に縁取られた、実に明快でいて繊細、かつ躍動感に満ちたすばらしい演奏を展開していること。(中略)
 ソロを担ったふたりは、さすがに師弟だけに音楽作りの方向性が非常に近く、「コンチェルトーネ」など、どちらがどちらを弾いているのか分からないほど。5曲のヴァイオリン協奏曲に関しては、両者とも十分に闊達な演奏を繰り広げているのだが、(中略)、音にも表現にもさらに確たる奥行き感がほしい。(後略)

 
 J.S.バッハ/ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ全集

 寺神戸亮 (Vn)
 ヘンソトラ (Cemb)
 [デンオン (アリアーレ) COCQ84184〜5 ¥2520]


◆草野次郎:推奨                 [録音]=93点

寺神戸はバロック・ヴァイオリンという楽器の特徴をポジティヴに捉え、この楽器から発せられる音楽を過去の遺物ではなく人間の感情を豊かに表現するための音楽としてわれわれに提供している。バッハの6曲のソナタから、これほど美しく気品に満ちたカンタビーレと本来のリズムの躍動感が引き出された演奏も稀ではないだろうか。しなやかなボウイングが自然で感情に直結した音楽的起伏をつくり出している。6曲すべてがすばらしいが、特に緩徐楽章での、ゆったりとした旋律における表現は幽玄な雰囲気すらある。

 
 J.S.バッハ/
      無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)


 寺神戸亮 (Vn)
 [デンオン (アリアーレ) COCQ84182〜3 ¥2520]


◆中村孝義:推奨                 [録音]=93〜95点

別項のモーツァルトでは多少の不満も感じられた寺神戸だが、このバッハは実にすばらしい。彼自身の手になるライナー・ノーツを読んでいてもわかるが、バッハ、さらにはバロック音楽に対する深い理解と作品研究、さらには奏法研究などが並ではなく、またそれが、彼の高度の技術をもって実際の演奏として生きているところがなんともすばらしい。わが国にもこれほどの深さを持ったバッハ演奏、しかもピリオド楽器の世界で成し遂げる人が出てきたことは、日本人が西洋音楽をする上で大きな勇気を与えてくれる。


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