北とぴあ国際音楽祭 オペラ/ハイドン「月の世界」批評  

音楽の友2月号<Concert Reviews>から
2007.01.19 updatede
ハイドンの歌劇《月の世界》2日目を聴いた。演出は実相寺昭雄と三浦安浩。初日直前に実相寺が逝去して図らずも追悼公演となった。月の世界に憧れる裕福な男が、二人の娘と女中、各々の恋人たちの策略で月を旅行したと思い込ませるという筋書き。序曲でスクリーンに登場人物がイラストで映し出されて、聴き手に基本的な情報を与えるなど、馴染みの薄い作品への工夫が嬉しい。地上では月を望む天文研究所、月の世界では巨大な地球を背景とした近未来かつ劇画的な書割。次女役の森麻季は音程の取り方や華やかさ、表出力を含めて現代劇場向けの好演。そのためか、1幕では彼女と他の歌手の間にごく僅かな違和感があったが、それも幕が進むにつれて解消され、とりわけ長女役の野々下由香里は後半のアリアで秀逸な歌唱を聴かせた。父親役のベッティーニはヴェテランらしい安定した歌唱、役どころを押さえた秀演で舞台を引き締めた。寺神戸亮指揮レ・ボレアードは端正かつ明快、生き生きとした音楽作り。寺神戸が舞台でヴァイオリンを弾くシーンもあり、イタリアの仮面喜劇とアニメ&実相寺的世界、ハイドンの音楽の魅力が見事に溶け合って、大いに楽しめた。
(12月2日・北とぴあさくらホール、那須田務)
朝日新聞(2006.12.21)から
2006.12.22 updatede
18世紀オペラ 光った仕掛け
珍しい18世紀オペラが、少しずつ日本の演奏家たちの手で上演されるようになってきた。「北とぴあ国際音楽祭2006」で上演されたハイドンの「月の世界」は、1777年作のオペラ・ブッファ。老人と娘とその恋人が繰り広げるおきまりのパターンが賑やかに、軽妙に展開する。(中略)
今回の上演成功の一番の要因は、ふたりの娘役ソプラノ、森麻紀と野々下由香里にあったろう。森は、澄み切った声を確実にコントロールする清新な歌唱で舞台に華を添えつつ、娘特有の可憐でいたずら好きな性格描写も怠らない。野々下も技術的には同格で、ちゃめっ気たっぷりの娘を演じつつ、アリアや恋人との場面で、ドラマの軸として、より大人らしい情感を歌い出す。女中役の穴澤ゆう子も、表現力豊かな歌を聴かせて舞台に奥行きを与えた。
寺神戸亮指揮のレ・ボレアードが、オペラに必要な覇気を最後まで失わず、むしろ次第に調子をあげながらともに舞台を楽しんでいたのが、成功のもうひとつの要因だ。(後略)
(長木誠司・音楽評論家)



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